アメリカが警戒“失言政治家”の危ない勘違い

アメリカが警戒“失言政治家”の危ない勘違い

大前研一の日本のカラクリPRESIDENT 2013年7月15日号より転載
http://president.jp/articles/-/9819?page=4

日中間に“偶発的な戦争”が起こる

外国人記者クラブで、「従軍慰安婦問題」発言の釈明をする橋下大阪市長。(ロイター/AFLO =写真)

日本の政治家の発言が国際的にも物議を醸すケースが目立っている。

五輪招致に絡んで「イスラム世界はケンカばかり」と発言してヒンシュクを買った猪瀬直樹東京都知事。橋下徹大阪市長は「従軍慰安婦は必要だった」と言い、米軍に風俗産業の利用を勧める発言をして、批判と抗議の集中砲火を浴びた。両人とも当初は「(発言の)真意が伝わってない」と反発しながらも、結局は謝罪に追い込まれてしまった。

中国や韓国のみならず、アメリカの新聞メディアにおいても、「日本の右傾化」を警戒する論調が強まっている。日本維新の会の共同代表である橋下市長と石原慎太郎氏、安倍晋三首相の3人をひと括りにして、「日本の中枢が右傾化している」と指摘する向きも出てきた。

石原氏の暴走ぶりはもはや伝統芸だから誰も驚かないが、一国のリーダーである安倍首相や次期首相候補と目される橋下市長が同じことを言ったら、そうはいかない。日本の指導部が「日本全体が右傾化している」と国際社会から危険視されることは、日本にとって得策ではない。

アメリカの懸念は、日本がかつての全体主義国家に戻ることではない。

彼らが恐れているのは、日中間に“偶発的な戦争”が起こることだ。つまり安倍政権下では、偶発戦争の危険性もありうると見ている。もし戦争が起これば、アメリカは日米安全保障条約に基づいて日本側に加担せざるをえなくなる。新たな米中関係を築き、日本とも友好的な関係を保ちたいアメリカは、自らが戦争の当事者になることを非常に恐れている。ゆえに、日本の“右傾化”に対して警戒感を高めているのだ。

安倍首相は、「中国や韓国との歴史の見直し」にも言及している。日中、日韓の歴史を見直すということは、原爆投下、東京裁判、そしてアメリカの占領統治下時代の政策を見直すことにもつながる。そこにはアメリカにとって、不都合な真実も封印されている。

日本が右傾化することで、過去が掘り返され、自分たちがやってきたことを全否定するような動きが出てくることに、アメリカが憂慮している一面もある。

政治家は発言力とディベート力

橋下発言が世界的に炎上した背景には、当人の国際感覚のなさに加えて、アメリカなどからのこうした日本の右傾化に対する強い警戒感があるのだ。

日本の政治家は昔から失言が多い。では、なぜ彼らは簡単に失言をするのだろうか。結論から言えば、「発言のトレーニング」を受けていないからである。

アメリカの政治家の場合、ハーバード大のケネディスクール(行政大学院)などで、徹底的にディベートをさせられる。自分の発言に対して、クラスメートから縦横斜めに斬り込まれるのだ。高校でもディベート教育が行われて、そうした中で発言の感性が磨かれる。女性問題やネイティブアメリカンの問題、ヒスパニック、オリエンタル……多民族国家であるアメリカという国ではどういう発言をすると危ないのかを経験するのだ。

大統領選であれ、州知事選であれ、地方選であれ、アメリカの選挙では候補者同士が壇上でディベートをするのが習わしである。ディベートの結果次第で選挙の結果が左右されるから、政治家は発言力とディベート力を磨かざるをえない。

その場を仕切るMC(司会者)も、大変なトレーニングを受けたトークのプロだ。ラリー・キング、バーバラ・ウォルターズのような名物司会者がいるが、彼らは頭の回転が速いし、話の展開も早い。インタビュー相手にどういう発言をさせれば場が盛り上がるか、聴衆のクレームを呼ぶか、よくわかっていて、それを引き出そうとする。アメリカの政治家はそういう司会者や聴衆からの厳しい質問に答えて、失言を回避しつつ、ポイントを稼がなければならない。

アメリカでジャーナリズムや討論番組の司会者に対しての訓練としてよく用いられるのが「ソクラテスの対話(的手法)」だ。対話を通して相手の知らないこと(無知)を気づかせる手法である。「ソクラテスの対話」を使って、自分の立場と相手の立場を入れ替えて議論をする。たとえば石原氏を韓国人の立場に立たせて、いかに石原発言に問題があるかを、頭の中を360度回転させて論じさせるのだ。

自分ではない人の意見を代弁させて、自分の意見のどこに間違いがあるかを知らしめるのがソクラテスの対話法の極意である。アメリカのジャーナリズム学校では「ソクラテスの対話」を学ぶし、一般企業の部課長のトレーニングにも使われている。

安倍首相の発言も、物議を醸す要因となっている。「侵略の定義は定まっていない」「侵略の定義は国と国の関係でどちらから見るかによって違う」などと発言したことで、近隣諸国の反発を買っただけでなく、アメリカ議会からも懸念の声が上がった。すると一転、「(侵略の定義は)歴史家に任せる問題」と、いきなり他人任せの発言に修正している。歴史家に任せるなら初めから自分の考え方を披瀝しなければいいのだ。

安倍首相が歴史の見直しをやりたいのなら、取り巻きの経済学者にアベノミクスを考えさせているように、「専門家」にやらせればいいのである。

“この議論はしないほうがいい”


安倍首相は、今夏の参議院選挙後、憲法改正問題に踏み込むか。(ロイター/AFLO =写真)

「そのまま継承しているわけではない」と、見直しを示唆していた村山談話も、安倍首相は「(談話)全体を歴代内閣と同じように引き継ぐ」という菅義偉官房長官の発言を追認する形をとって、「官房長官の見解が政府の見解」と逃げている。もし安倍首相が「ソクラテスの対話」を使って、自分の発言を相手の立場に立って検証していれば、“この議論はしないほうがいい”という結論に至ったはずだ。

日本の植民地支配を認めて謝罪した「村山談話」については、高市早苗自民党政調会長も、「日本は自存自衛のために戦った。資源封鎖されても抵抗せずに植民地になる道がベストだったのか」と見直しを主張していた。しかしながら、自民党内からもバッシングにあってすぐに陳謝している。「ワシントンで政治を勉強した」ことを売りにしているとは思えない後退ぶりだ。

まず見直しを主張するのなら、「自分ならこういう談話を書く」という代案を提示すべきだろう。「侵略戦争ではなかった」というのは、右寄りの日本人だけの発言ではない。「日本はルーズベルトによって不可避の戦争に引きずり込まれたのであり、侵略という言葉は当たらない」と主張するアメリカ人の学者もいる。そうした幅広い証拠を示せば説得力が増すし、自分に対する批判を避けることも可能になる。

このように、「自分の発言がどういう反応を引き起こすか」ということに考えが及ばず、あたかも自分だけの主義主張のように言ってしまうから、「発言」が「失言」に転じてしまうのだ。

決して少なくない「日本大好き」の声

私は、歴史には2つの歴史が存在すると考える。「事実として存在する歴史」と「後世の人々が思い込んでいる歴史」である。

たとえば太平洋戦争の幕開けになった日本の真珠湾攻撃。日本軍がパールハーバーにアタックしたのは歴史的事実だが、なぜアタックしたのか、その理由は諸説ある。たとえばロシアでは、当時の日本軍に戦艦アリゾナを沈める攻撃力はなく、真珠湾攻撃はアメリカ国民を覚醒させるためにルーズベルトが仕掛けた罠だったと信じられているし、この説はアメリカにもある。

政治家が歴史に立ち入る場合には、「事実を集める能力」「自分の考えをまとめる能力」「自分の考えを説明する能力」、そして「相手を説得する力」が不可欠だ。これらの力をすべて揃えなければ、政治家が歴史を書き換えることはできない。そういう意味では安倍首相も橋下市長も高市氏も書き換える“資質”を欠いている。

安倍首相が歴史の見直しをやりたいのなら、取り巻きの経済学者にアベノミクスを考えさせているように、「専門家」にやらせればいいのである。
そもそも政治家の仕事というものは、「歴史を書き換えることではない」と私は考える。それでもあえて歴史を書き換えたいのなら、政治家にできることは2つしかない。1つは政治の実績を積んで、過去のどの時代よりも今の日本のほうがいいと国民や世界に思わせること。

もう1つは、積極的に中国や韓国に関与して、彼ら自身の口から「日本の植民地支配にも見るべきところはあった」と言わせることだ。政治家にできるのは“将来をつくる”ことで、「過去に問題があった」と思う人々の意見を変えてしまうことである。韓国人と中国人におしなべて、「安倍さんは偏見のない素敵な人だ」と思わせるのも効果的だ。

このような人が存在してくれれば、韓国人や中国人の中に、「過去の“おかしな時代”は再現されない」と思う人も増えて、歴史認識にこだわる人はいなくなる。実は中国にも韓国にも日本贔屓な人は結構いる。バッシングされるのが怖いため、大っぴらには言わないが、「わが国が経済成長できたのは日本のおかげ」「日本大好き」という声は決して少なくない。

中国や韓国で反日教育が盛んなのも、そこまでやらないと反日の火種が消えてしまうからである。一皮剥けば中国人も韓国人も「日本が好きだし、関心がある」のだ。韓国の著名な経営トップの多くは、日本語が話せるし、日本への留学経験がある。大統領官邸の青瓦台は、日本統治時代の象徴的な建物だ。

日韓、日中の歴史にはプラスの面もたくさんある。それを日本側から持ち出すのではなく、関係を緊密化して、向こうから話が出てくるようにすることが重要だ。

歴史の事実ではなく、事実と教えられ、ある意味で信じ込んできた両国民の積み重ねによって、日中関係や日韓関係は塗り固められてきた。これを解きほぐすために政治家ができることは、良好な外交関係を築くことで「あるべき将来をつくり出していく」ことしかない。
スポンサーサイト
NEXT≫
プロフィール

yoiko00

Author:yoiko00
これでよいのか日本

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
全記事表示リンク
訪問者カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR