在日米軍に出ていってもらっては困る日本政府

韓国台湾を取り込む中国
2014年2月19日   田中 宇より転載


 2月15日、北京を訪問した米国のケリー国務長官が、習近平や李克強ら中国首脳と会談したあと「中国側は、北朝鮮に核兵器開発をやめさせるための努力をもっと行うと表明した」と発表した。米政府は以前から、北朝鮮に核開発をやめさせるために、米国でなく中国が主導して北に圧力をかけろと言い続けてきた。北の核廃絶を目標にした6カ国協議は、2003年にはじめて開かれて以来、すべての重要会議が北京で行われてきた。 (China `to press N Korea to quit nuclear programme')

 米国の期待に反し、中国はこれまで北に圧力をかけたがらなかった。1950年からの朝鮮戦争で米軍が北上した時、北朝鮮国家が潰されることを防いだのは、毛沢東が派遣した中国軍だった。中国は、1949年に米中が構想した関係改善の可能性を犠牲にして、無数の戦死者を出しつつ米軍と戦争して北朝鮮を守り、それ以来、中朝は同盟関係にある(最近は同盟が表向きのみだが)。その歴史があるので、中国は(表向き)北に圧力をかけたがらなかった。 (朝鮮再戦争の瀬戸際)

 また、中国が米国の求めに応じて、北を抑止する責任者(宗主国)であることを認めると、北が反抗して抑止できない場合、中国のせいにされ、米国の好戦派による敵視策の餌食にされかねない。中国は6カ国協議を主導したものの、北に圧力をかけたくなかった。米国が東アジアにおける中国の覇権拡大を容認しようとした「米中G2」構想にも、中国は乗らなかった。 (日米安保から北東アジア安保へ)

 しかし、世界的に米国の覇権減退が進行し、韓国も外交や経済面で中国にすり寄る傾向を強めている。米韓と中国のバランスをとる国家延命策を採ってきた北朝鮮の金正恩は昨年末、中国の影響力拡大を予測して先制的に、北における中国の代理人だったナンバー2の張成沢を処刑した。張成沢の処刑の罪状には、地下資源や土地利用権などの国家の利権を中国に安く売ってしまったことが入っていた。 (北朝鮮・張成沢の処刑をめぐる考察)

 中国は、張成沢処刑の前後から、北を抑止する姿勢を強め、中国軍が中朝国境沿いで軍事演習を展開し、北が対抗して国境に防護壁を設けたりした。しかし、その一方で北は韓国に対し、07年から開かれていなかった高官協議の再開を提案し、2月12日に板門店で高官協議が実現し、離散家族の再会を行うことなどで合意した。 (Detente in Korea? North and South hold high-level talks after request from Pyongyang)

 その前の1月中旬に北朝鮮は、韓国に対して「非難しあうのはやめよう」と提案した。米国側は、こうした北の対話攻勢を、実際の姿勢と矛盾する口だけの策略と受け取り、むしろ好戦的な姿勢で呼応した。米韓は1月下旬に、北の政権を転覆するシミュレーションを柱とする合同軍事演習を行った。北朝鮮はめずらしくこの件を国連に持ち込み、北の国連大使が米韓に軍事演習をやめるよう米韓に求める提案を行い、記者会見も行った。 (Let's Cease the Insults, North Korea Says to South) (In South Korea, US Special Ops Train to Help Overthrow North Korean Regime) (North Korea warns U.S., South Korea military drills could spark disaster)

 南北が話し合いを重ね、米韓が北敵視の軍事演習をやめ、北は核兵器開発施設を廃棄し(核兵器自体は隠し持つことが黙認されるかも)、米国は北との国交を正常化し、いずれ在韓米軍も撤退し、南北が何らかの連邦を形成するという道筋は、中国が最も好むものだ(在日米軍の駐留理由が激減するので、日本政府はこの道筋を好まない)。南北対話を提案したり、軍事演習で北敵視をやめない米韓を、中国が影響力を拡大している国連で批判したりする、今年に入っての北の言動は、中国に好まれようとするやり方に見える。

 北の金正恩にとって、中国の代理人だった張成沢を昨年末に殺したことと、今年に入って中国が好む対南和解策を開始したことは、硬軟取り混ぜた、ひとくみの対中国戦略であると感じられる。金正恩は、張成沢を殺して中国のくびきから自らを解放すると同時に、中国が好む方向の外交を開始したことになる。中国にとって、張成沢を殺されたのはマイナスだが、北が久々に韓国との対話を再開したのは歓迎だ。

 このように、中国が描いた道筋を久しぶりに北朝鮮が歩み始めたのを見はからうかのように、タイミング良くこの地域に飛んできたのが米国のケリー国務長官だった。ケリーは、南北が高官会議をしている最中にソウルを訪問し、南北対話を歓迎しつつも、北朝鮮の和平攻勢は米韓から金をむしり取ろうとするだけの策略だろうと北を批判し、米朝が交渉する可能性を否定した。ケリーはまた、2月末の離散家族再開と同時期に行われる次回の米韓軍事演習を延期することを拒否した(北は高官会議で演習の延期を求めた)。 (Kerry in Seoul for talks on N Korea nuclear ambitions)

 そしてケリーは、ソウルのあとに北京を訪問して習近平らと会談し、本記事の冒頭に書いた、中国が北朝鮮の核開発の抑止にこれまで以上に努力するという言質を習近平からとりつけ、会談後にさっそく発表した。ケリーの言動からうかがえる米政府の方針は、ブッシュ前政権時代の03年から変わらない「北朝鮮問題の解決は中国に任せる。米国が先に北と和解することはない」というものだ。米国は、中国主導の北朝鮮問題の解決を支持するが、米国が中国に協力して北敵視の米韓軍事演習をやめることはない。

 米国の、北の問題に対するこの姿勢は、対イランやシリアの姿勢と同じだ。「中国主導」を「中露主導」に「北朝鮮問題」を「イラン」「シリア」に替えると、同じことがいえる。オバマ大統領は昨夏、シリア問題の解決をロシアに丸投げした。イラン問題でも米国はいったんイランを許し、昨秋に米欧露中とイランとの核交渉が大きく進展したが、最近になって米議会がイラン制裁を強化する姿勢を見せ、欧露中はイランと和解するが米国だけ和解しないことになりそうだ。これらはすべて、米国抜きで各地の国際問題が解決されていき、米国が孤立主義に傾いていく方向性を示している。 (米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動) (中東政治の大転換)

 米国ではオバマが不人気なので、次期大統領選挙で共和党が勝つ可能性があり、孤立主義(反覇権主義、国内優先主義)のランド・ポール上院議員が大統領になるかもしれない。そうなると孤立主義がぐんと現実性を増す。(共和党の重鎮であるジェームス・ベーカー元国務長官は、昨秋すでにランド・ポールへの支持を、FTに載せた論文で表明している。すでにシオニストは「ランドポールが大統領になったらイスラエルを守ってくれるのか」と書いている) (To win again, the Republicans must be a party of hope - By James Baker) (Calling out Rand Paul: Will you really defend Israel?)

 マスコミ的「常識」で見ると、米国は「アジア重視策」という名の中国包囲網を強化していることになっている。米国が中国を包囲する気なら、朝鮮半島を中国の傘下にするのは敗北だ。朝鮮問題の解決の主導役は、中国でなく米国がやらねばならない。しかし実のところ米国は10年以上前から、朝鮮半島の主導役を中国に押しつけようとしている。北朝鮮だけでなく、韓国もしだいに中国の傘下に入っている。米国の中国包囲網策は茶番である。 (不合理が増す米国の対中国戦略)

 韓国と同様、中国包囲網の先兵として米国が取り込んでおかねばならない国(地域)として台湾(中華民国)がある。米国は1979年に中国と国交を正常化した後も、台湾関係法などで台湾を保護し、中国が台湾を併合するのを防いできた。しかし近年の米国は、台湾の国民党政権が中国との親密性を増していくのを看過し、台湾独立を目標にする民進党を冷遇して、中国を利する利敵行為を続けている。 (台湾中国への米国の態度の表と裏)

 その挙げ句、ついに先日、台湾と中国の代表者が、60年前の国共内戦以来初めての会談を、南京(かつての中華民国の首都)で4日間にわたって行い、相互に代表部を設けることなどで合意した。経済面で台湾が中国に取り込まれる傾向も加速するだろう。 (China and Taiwan plan to open offices after first official talks)

 台湾企業は中国で、他の外国の企業より有利な立場にあり、今後、中国政府の計画どおりに国内消費市場が開発されていくと、台湾は経済的な恩恵を大きく受ける。すでに台湾の観光産業は、中国からの観光客なしに成り立たない。今後もし台湾の選挙で政権交代があり、台湾独立を求める勢力が党内にいる民進党が政権をとったとしても、中国との関係を劇的に悪化させられない。民進党では、幹部が次々と共産党に招待されて中国を訪問し、党内で台湾独立の党是を再強化しようとする勢力と、独立派を追い出そうとする勢力との内紛が続いている。 (DPP swallows pride, hooks up with CCP)

 台湾と中国が政治的に接近していく中で強化されそうなのが、尖閣諸島問題で台中が結束し、日本を共通の敵としていく姿勢だ。もともと中国政府の主張は、尖閣諸島が台湾の一部であり、台湾が中国の一部だから、尖閣は中国領だというものだ。台湾はかつて「親日の島」だったが、日本が冷淡だったこともあり、親日性は過去の話になりつつある。 (尖閣で中国と対立するのは愚策)

 朝鮮半島と台湾は、日本に米軍が駐留している2大理由だ。韓国と北朝鮮が和解し、台湾と中国が和解してしまうと、在日米軍の必要性は大幅に低下する。普天間の代わりに辺野古に基地を作る必要などなく、普天間の海兵隊はグアムや米本土に移転するのが、日米双方にとって良い。名護市の稲嶺市長らがやっている辺野古の基地建設反対が正しくて愛国的だ。稲嶺氏を批判する者たちの方が「非国民」だ。 (Okinawa mayor plans to block Marine base, says re-election gives him mandate)

 逆に、朝鮮半島と台中間の和解の可能性がかなり前からあったことをふまえて考えると、対米従属を国是とし、在日米軍に出ていってもらっては困る日本政府は、朝鮮や台中が和解しても在日米軍が出ていけないよう「別の問題」を作る必要がある。それが、日本政府が尖閣問題を使って日中対立を、竹島問題を使って日韓対立を醸成した理由とも考えられる。日韓関係が良いほど、日韓が軍事協定を結んで在日・在韓米軍が撤退することに道が開ける。 (日本の官僚支配と沖縄米軍)

【続く】
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

プロフィール

yoiko00

Author:yoiko00
これでよいのか日本

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
全記事表示リンク
訪問者カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR