紙の価値をモノの価値に変換する魔術

中国の経済発展は米中の談合による紙の価値をモノの価値に変換する魔術の結果
以下2016年1月13日   田中 宇
より転載


ドルの魔力が解けてきた
2016年1月13日   田中 宇


 今年に入り、金融市場の実体経済の両方が、世界的に悪化の傾向を加速している。先進諸国の雇用や経済成長(GDP)などの統計は、当局による粉飾の疑いがあり、世界不況の兆候が隠されているが、海運や鉄道貨物などの物流からは、実体経済が世界規模で不況に突入していることがうかがえる。国際海運価格の動向を示すバルチックドライ指標は、史上最低を更新し続けている。貨物船の世界的な動きを示す「VesselFinder.com」などを見ても、太平洋や大西洋で船の動きがないことがわかる。米国の鉄道貨物の輸送量も昨年比5%の減少だ。 ("Nothing Is Moving," Baltic Dry Crashes As Insiders Warn "Commerce Has Come To A Halt") (VesselFinder.com) (Bank of America: Rail Traffic Is Saying Something Worrying About the U.S. Economy) (ひどくなる経済粉飾)

 昨年は、いくら実体経済が悪くても、米日欧の中央銀行が続けているテコ入れ策(QEなど)によって、先進諸国の株価が実体経済の悪さを無視して上昇してきた。だが今年に入り、実体経済の悪さによって株価が下がると、翌日には中央銀行のテコ入れで株が反騰する乱高下の状態になっている。中央銀行のテコ入れ策の効力が薄れていることがうかがえる。 (China, Oil, & Markets: It's All One Story) (Derailed? What Rail Traffic Tells Us About The U.S. Economy)

 最近、世界で最も株価の急落が激しいのは中国だ。世界経済の悪化は中国のせいだと、中国を敵視したがるマスコミが騒いでいる。だが、昨年3月まで米連銀(FRB)の一部アトランタ連銀の総裁をしていたリチャード・フィッシャーは先日、CNBCのインタビューで「市場を不安定にしている元凶は、中国でない。米連銀だ」「私もその一員だった米連銀は、これまでさんざん相場を上昇させてきたが、今やその後始末に窮している」「連銀は(市場を動かせる)巨大な兵器を持っているが、その兵器は、もう弾が残っていない」と述べている。 ("We Frontloaded A Tremendous Market Rally" Former Fed President Admits, Warns "No Ammo Left")

 米連銀の元幹部が、自分たちがバブルを膨張させすぎてもう打つ手がないことを、こんなに赤裸々に認めたことはこれまでなかった。金融マスコミの歪曲報道システムの外側にいる分析者たちが以前から語っていた「連銀や日銀はバブルを扇動しているが、いずれ弾切れになる」という分析が、今や連銀自身の認めるところとなっている。 (◆ドル延命のため世界経済を潰す米国) (Global Central Banks Are Facing a Crisis Larger Than 2008... And With Little to No Fire Power Left!)

 中国と米国は昨年初めまで、談合して世界経済のバブルを膨張させてきた。米国が債券金融システムを膨張させ、中国勢はその資金を中国のインフラや製造業の設備にどんどん注ぎ込んでいた。米国勢が作った「紙の価値」を中国勢が「モノの価値」に転換し、金融だけでなく実体経済が世界的に成長する状態を作り出していた。中国はずっと過剰投資だったが、もともとの資金が無尽蔵の米国製の「紙」だったので、過剰が続いても破綻しなかった。 (The China Syndrome: The Coming Global Financial Meltdown) (2016 Is An Easy Year To Predict)  だが、この米中の談合の構図は昨夏、中国株の暴落を皮切りに、中国の過剰投資状態が崩壊したことによって終わった。米金融界に食わせてもらっているマスコミや分析者は「中国は崩壊したが米国は大丈夫だ」と言っているが、実体経済の後ろ盾を失った「紙」の価値は、紙でしかないバブル性がしだいに露呈し、中央銀行のテコ入れ策に頼る度合いが強まった。しかし、まさにその傾向が強まった昨年秋、米連銀が利上げに動き、日欧の中央銀行もこれ以上QEを加速できない上限に達し、中央銀行群によるテコ入れ策は限界にきている。これがフィッシャーの言うところの「弾切れ」である。「紙」を巨額の価値に変身させるドルの魔力が、しだいに弱まっている。 (SOMETHING BIG IS COMING… THE BANKS HAVE NEVER DONE THIS BEFORE) (◆構造転換としての中国の経済減速)
 FT紙も1月12日の記事で、米MITのシラー教授の指数分析をふまえて「米国の金融相場は、1930年代や2000年のバブル崩壊の直前よりもさらにひどいバブル膨張の状態になっている」と書いている。 (What market turbulence is telling us)
 金融崩壊を引き起こすもう一つの要素は原油安だ。原油の国際価格(北海ブレント)は昨年から下落を続け、1バレル=30ドルを割るのが時間の問題だ。昨年初め「年末には1バレル25ドルになる」と、1バレル50ドルだった当時の常識からすると非常に大胆な予測を発して嘲笑されていたが、今や誰よりも予測が当たっている英スタンダードチャータード銀行の分析者が、こんどは「1バレル10ドルまで下がる」と予測している。1バレル20ドルまでは下がる確率がかなり高い。 (Forget $20 Oil: StanChart Says "Prices Could Fall As Low As $10 A Barrel") (Tumbling oil trades below $30 a barrel for first time in 12 years)

 原油安は、サウジアラビアの王室による、米国のシェール石油産業を潰して世界の原油市場の支配権を米国からサウジに引き戻す戦略によって引き起こされている。激しい原油安によって、サウジ政府自身が財政難に陥っているが、王室はこのほど、国営石油会社サウジ・アラムコの株式の一部を上場することを決めた。アラムコは総資産10兆ドルといわれる世界最大の石油会社だ。上場するのはアラムコのうち国際部門の5000億ドル程度だけと推定されているが、それでもアップルの時価総額(5500億ドル)と並ぶ世界最大級になり、原油安によるサウジの財政赤字の2年分に相当する。 (Banks scramble for a piece of Saudi Aramco IPO) (米サウジ戦争としての原油安の長期化)

 サウジ王政は、アラムコの株式上場で財政赤字が補填され、あと1-2年は米シェール産業との原油安の我慢比べを続けられるようになった。米シェール産業はすでに大赤字だが、ジャンク債市場の大口の発行者であるシェール産業が連鎖破綻すると社債市場全体のバブル崩壊を引き起こすので、米金融界は無理をしてシェール産業に運転資金を貸してきた。シェール産業は意外に長く我慢比べに耐えている。しかし、アラムコ上場で財政赤字を補填できるサウジ王政は、まだまだ原油安を続ける構えで、それが年初来のさらなる原油相場の下落となってあらわれている。 (As The Saudi Economy Implodes, A Fascinating Solution Emerges: The Aramco IPO) (2015年の予測)

 このままの状態が続くと、来年夏までに、米国の石油会社の3割が倒産の危機に瀕すると、ウォールストリートジャーナル(WSJ)が書いている。WSJは、原油安が来年までずっと続くと予測している。同様にCNBCは、アナリストの分析を引用し、米国のシェール産業の半分が倒産し、サウジが今後2年かけてシェール産業潰しを成功させた後、原油相場が1バレル60ドルぐらいまで回復すると予測している。 (Oil Plunge Sparks Bankruptcy Concerns) (Half of US Shale drillers may go bankrupt: Oppenheimer's Gheit)

 米国で、シェール産業の半分とか、石油業界の3割が破綻する事態になったら、米国の社債市場は、リーマン危機並みかそれ以上の激しさで崩壊する。株も債券もバブル崩壊する。すでに、石油ガス産業の危機拡大によってジャンク債市場の全体が悪化し、米国で借金体質の企業のリスクの上昇に拍車がかかっているとS&Pが指摘している。 (S&P says corporate credit conditions worsening at fastest pace since crisis)

 中国を筆頭とする実体経済の悪化、米シェール産業の行き詰まり、中央銀行群の金融テコ入れ策の弾切れなど、いくつもの危険な動きが激化している。米国など先進諸国の株や債券がいつ不可逆的に暴落しても不思議でない。英国のロイヤルスコットランド銀行は最近、顧客に対し「手持ちの株や社債を早く売却した方が良い。パニック売りの状態になってからでは遅い」と忠告していると、英テレグラフ紙が報じている。モルガンスタンレーやバンカメも、似たような警告を発している。 (RBS cries 'sell everything' as deflationary crisis nears) ("Panic Is Building" BofA Admits; Asks "How Bad Could This Get?")

 株や社債市場が崩壊していくと、最初はすべての資金がリスクに非常に敏感になり、低リスクな米国債だけが上昇するだろう。だが、米連銀など先進諸国の中央銀行群に打つ手がないとわかると、金地金など「紙」でない資産に資金が集まり、中央銀行に対する信頼も失墜していく。この崩壊期は、出口が見えるまでに何年もかかりそうだ。今年が、その崩壊期の始まりになる可能性が、しだいに高まっている。 (During the Next Crisis, Central Banking Itself Will Fail)





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