中国経済の崩壊

2016年3月3日   田中 宇 より転載
中国経済の崩壊
2016年3月3日   田中 宇


 中国経済が、リーマンショック以来の悪さになっている。景況感で見ると、製造業はマイナス成長で、サービス業も成長が鈍化している。企業の受注や雇用の動向を総合した「購買担当者景気指数」(PMI)は先月、製造業で49で、49・8だった1月よりさらに悪化した。PMIは50が「ゼロ成長」を示しており、50未満は「マイナス成長」だ。中国の製造業は2か月連続でマイナス成長となっている。 (Official and Caixin factory activity gauges slow again in Feb, underlining need for RRR move) (China's Economy: The World's Factory Starts Year in a Slumber) (China data signal deepening slowdown)

 サービス業のPMI(Caixin)は、1月が52・4、2月が51・2で、まだ50以上で成長を続けているものの、かなり減速している。中国政府は近年、製造業に偏重したこれまでの経済構造を修正する意味で、サービス業の拡大に力を入れている。サービス業の減速は、製造業の悪化と並び、中国経済が危機的な状況にあることを示している。中国は昨年、発電量も25年ぶりに減少している。 (China's economy is 'still weak and unstable') (China 2015 power, steel output drop for first time in decades)

 中国経済は、昨夏に株が暴落し、人民元の切り下げが始まるまで、世界経済の牽引役だった。無茶な設備投資をして「設備投資バブル」を膨らませてきた中国が、世界経済全体の成長率の半分を占めてきた。だが昨夏以来、中国は設備投資バブルの崩壊が進み、それが世界の不況入りにつながっている。設備投資バブルの崩壊とともに、中国では大量解雇が広がっている。 (China's Mass Unemployment Wave Begins: Six Million Workers To Get Pink Slips) (新興市場バブルの崩壊)

 中国政府は、今後2-3年間に500万-600万人の国有企業の従業員を解雇する計画を立てている。炭鉱業で130万人、製鉄業で50万人の解雇が予定されている。180万人の失業者への補償金の総額として政府は11兆元を用意する必要があると概算されているが、中国政府はその2割以下の1兆5千億元しか用意しておらず、失業者の不満が募りそうだ。 (China to lay off five to six million workers, earmarks at least $23 billion) (China's Cost To Avoid The Dreaded Working Class Revolution: A Record CNY11.1 Trillion, And Rising)

 国有企業の中には過剰投資のツケで巨額の不良債権を抱えるところも多い。中国政府はそちらにも資金を出さねばならず、失業者に十分な補償ができない。セメントやガラスなどの建設資材、造船などの業界でも大量解雇が始まっている。中国では毎年1500万人が新卒者として労働市場に入ってくる。解雇が広がるなか、新卒者への職の割り当てもままならず、人々の不満や反乱の増大が確定的になっている。 (China to shed 1.8m coal and steel jobs) (China Warns "Social Stability Threatened" As 400,000 Steel Workers Are About To Lose Their Jobs)

 中国政府は、人々の不満が広がらないよう、マスコミ報道の抑制を以前に増して強めている。中国の記者は、経済に対する悲観的な見方を書きすぎると、当局からいやがらせや処罰を受ける。証券会社が重要顧客に株の売却を推奨していたとすっぱ抜いた記者が、巨額の罰金を科されたりしている。中国政府は悪い経済指標を隠そうとすることもやっている。だが、隠していることがわかってしまう点で、マスコミを巻き込んで完全犯罪に近い指標歪曲を何年も続けている米国政府よりも邪悪さが低い。中国政府は情報操作能力の点でまだ「発展途上国」だ。 (As China's Economy Craters, Economic Data Starts to "Disappear") (China Stops Reporting Key Data Showing Size Of Its Capital Outflows) (Chinese ministries scramble to get on-message) (ひどくなる経済粉飾)

 製造業の工場が多い広東省などでは、昨夏以来、ストライキが急増した。香港の労働支援団体によると、中国全体のストライキ件数は昨年2774件で、一昨年の2倍になった。その多くは、世界不況のあおりを受けた賃金の大幅減少や、解雇にともなう補償金の不十分さが原因だ。「社会主義」の中国は「労働者の国」の建前だが実際は正反対で、共産党傘下の労働組合は労働争議を禁止する側だ。ストライキはすべて「不正」な山猫ストだ。香港の労働団体がそれを支援して活動家を送り込み、当局が活動家やスト指導者を逮捕することが増えている。 (China economy: Workers of the `world's factory' protest against wage cuts and layoffs)

 昨秋来の世界不況で、世界的に巨大な設備過剰が生じている。たとえば鉄鋼業では、全世界で7億トンの設備過剰だが、そのうち4億トン強が、中国を中心とするアジア地域にある。中国は、米国などから鉄鋼ダンピングの批判を受け、生産設備を大幅に削減せざるを得ない状況だ(トランプの中国批判はこの線に沿っている)。トウ小平が1980年代に改革開放を始めて以来、中国は、設備や不動産の過剰供給とバブル崩壊を何度も繰り返してきたが、今回のバブル崩壊は特に巨大だ。 (Great Depression Redux: First Currency War, Now US Unleashes Trade War With China)

 中国政府は経済の悪化を緩和するため、財政出動を計画しているが、これは財政赤字の増加を招く。中国の財政赤字の対GDP比は、12年の33%から、昨年末に41%へと増えたと概算されている。経済の減速と、それを受けた政府財政の悪化、外貨準備の減少を理由に、債券格付け機関のムーディーズは、中国の国債格付けを「Aa3安定」から「Aa3下方傾向」へと格下げした。中国の格下げは99年以来のことだ。 (Moody's Downgrades China's Credit Outlook From Stable To Negative) (Moody's shifts to negative outlook on China sovereign rating)

 ムーディーズの格下げに対し、国営通信である新華社は、米欧の機関が(中国敵視策の一環として)中国経済を実態より悪く描く傾向が強く、格下げもその一環だという論調を流した。 (Moody's downgraded outlook shows short-sightedness on China's fiscal stability)

 新華社の論は言い訳くさい感じもするが、その一方で、確かに米国や日本のマスコミは、米日の政府やその傘下の機関が、景気や雇用が改善していると発表すると、それを鵜呑みにする方向の描写に満ちた記事を流すだけで、実は景気も雇用も悪化しており、政府が指標を粉飾していることを指摘しない。その半面、中国政府の発表に対しては、誇張が多いという指摘を毎回流し、中国経済がいかに悪化しているかを強調して報じている。中国のマスコミは顕然としたプロパガンダ機関だが、米日のマスコミはそれ以上の、多くの人々にそれと知られない隠然とした(成功している)プロパガンダ機関だ。 (China Loses Control of the Economic Story Line)

 中国は「悪」で米国は「善」なのだから、プロパガンダでいいんだという人がいるかもしれないが、そういう人は、自分の善悪観自体がプロパガンダを軽信した結果であることに気づいていない。

 中国の中央銀行である人民銀行の周小川総裁は、先日久しぶりにマスコミに登場し「中国は経済規模が全世界の1割だった時に、世界の経済成長の半分以上を稼いでいた。中国は今でも世界の成長の25%を稼いでいる。今でも中国は十分、世界経済の成長に貢献している。減速したといってもまだ6%前後で成長している。非難される筋合いはない。悪いのは中国でなく、世界が不況なのに(ドルと米国債を延命するために)自分だけ勝手に利上げしている米国の方だ」という趣旨のことを述べた。 (Finally, China's Alan Greenspan Speaks Out)

 中国経済は「崩壊」したと喧伝されても5%以上の成長を続けている。「25年ぶりの悪さ」と報じられているが、その中身である政府発表の成長率は6・9%成長だ。日本は昨年からマイナス成長だし、米国も実態はゼロかマイナスだ。中国は大量失業によって今後、政治社会的な混乱が増すかもしれず、下手をすると共産党政権が揺らぐかもしれず、その意味で従来より危機感が増している。しかし経済面では、まだ世界の牽引役であり、QEやマイナス金利、身勝手な利上げといった害悪な金融政策ばかりやっている米日欧に比べると、はるかに世界に貢献している。 (China's growth hits quarter-century low, raising hopes of more stimulus) (China annual GDP growth of 6.9% lowest since 1990) (ドル延命のため世界経済を潰す米国)

 最近、中国経済の悪化がひどくなっていると報じられたのに、米日の株価はそれを無視して上昇傾向を取り戻している。1月にも中国経済の悪化が報じられたが、この時は逆に、米日とも株価が急落し「中国の悪化が原因」とされた。しかし今回は「中国政府が対策を打つので大丈夫だと考えられ(1月も打っていたがそれは無視)」「米国の景気回復の方が重視されて」株価が上昇している。米日の株価のためには、中国経済の悪化が無視されなければならない。さもないと1月のように、株価が下落してしまう。中国経済の悪化は、政治面の「敵視策」からすると「ざまみろ」だが、経済面の株価維持策からすると無視の対象だ。 (Who's worried about China now?)

 米日の株価の上昇は、QEなどリーマン危機後の米国金融を延命させるための米日の策の副産物だが、中国のこの間の化け物的な経済成長と昨夏以来の急落も、同様にQEなど米金融延命策の副産物だ。リーマン後、米当局は金融救済のため財政出動や通貨発行を急増したが、それによって作り出された低利な巨額資金が中国を中心とする新興市場諸国に流入した。中でも中国は、米国から流入した資金で意図的に巨大な設備投資を行い、世界の実体経済の成長を牽引し、米国の金融延命策を実体経済の成長につなげる役割を果たしていた。中国政府は米国を敵視しておらず、米国の延命策に積極的に協力していた。 (構造転換としての中国の経済減速)

(米欧日では、中国が米国を押しのけて単独覇権国になろうとしているとみなされることが多いが、実のところ中国は、自国周辺の東アジアから中央アジアにかけての地域覇権国になることしか考えておらず、世界的な覇権は米国が持ったままで良いと考えてきた。米国が、気に入らない国を政権転覆して世界覇権を悪用したり、南シナ海で好戦的な態度をしつこくとって中国に脅威を感じさせたりして、米国の覇権などない方が良いと中国が考えるように仕向けているのが現状だ) (アメリカが中国を覇権国に仕立てる)

 中国が米国の金融延命策に協力する構図が崩壊したのが、14年11月からの、米連銀のQE終結・利上げ政策の開始(金融引き締め策への転換)だった。米国が引き締めに転じたため、高リスクである中国など新興市場への投資資金の金利が上昇し、新興市場からの資金逃避も起こり、膨張してきた設備投資のバブルが崩壊した。中国からの資金の流出は昨夏以来の中国株の暴落と、ドル買い人民元売りにつながり、株暴落がさらなる設備バブルの崩壊につながる悪循環が起きている。前出の人民銀行の周小川総裁は、自分たちはドル上昇の影響を過小評価していたと反省の弁を述べつつ、米連銀のQE終結と利上げ策が中国の経済悪化の元凶だと指摘している。 (PBoC governor breaks silence amid messaging criticism)

 中国など新興市場諸国の債券は、米国のシェール石油産業などと同様の高リスク債・ジャンク債の分野である。シェール石油など米国内のジャンク債は、米金融界から特に目をかけてもらって延命したので、新興市場から資金が流出して中国経済がバブル崩壊した後も、米国のジャンク債は何とか持っていた。だが昨年末から米国でもジャンク格の企業の倒産が急増している。中国は先に崩壊し、米国のジャンク債は後から崩壊するという時期的な違いだけで、現状の米連銀の利上げ策が続く限り、いずれ米国のジャンク債もひどいバブル崩壊を起こす。それは、リーマン危機より大規模な米国の金融崩壊につながるだろう。グリーンスパンとキングという米英の中央銀行の元総裁が最近、危機の再発を予測している。 (◆ジャンク債から再燃する金融危機) ("Another Crisis Is Certain", Warns Former BOE Chief)

 中国の経済危機は今後、少なくとも1ー2年は続く。しかし、その間に米国も金融危機が今よりもっと顕在化し、危機の面で米国が中国に追いつくだろう。自滅的な米国のQEを積極的に肩代わりしている日本も、米国と前後して危機が深まる。先日のG20で、米日欧の中央銀行が新たな延命策を何も打ち出せないことが判明して以来「中央銀行の弾切れ」が明確に指摘されるようになった。以前から「この延命策は、中央銀行が弾切れになったら終わりだ」と指摘されていたが、その「終わり」が近づいていることが感じられる。いずれ、米国の金融危機が、中国の経済危機を抜くだろう。 (万策尽き始めた中央銀行) (Central banks near policy limits but back in focus after G20)
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