米国の覇権が減衰したらどうするか、日本は考えねばならないはずだが?

2016年5月6日   田中 宇より転載。

潜水艦とともに消えた日豪亜同盟

2016年5月6日   田中 宇
 4月26日、オーストラリア政府が、同国史上最大の軍事事業となる12隻の海軍潜水艦の建造を、以前に予測されていた日本勢(三菱と川重)でなく、フランス勢(国営造船所、DCNS)に発注すると発表した。豪州のテレビ局がその数日前に、豪政府が閣議(安全保障会議)を開き、日本に発注しないことを決めたと報じており、先に(米国が推していた)日本を外すことを決めてから、最終的な発注先を決めた感じだ。 (It's Official: France's DCNS Wins Australia's $50 Billion Future Submarine Contract) (Submarine deal: Successful bid for new Royal Australian Navy boats to be announced next week)

 4月に入り、豪州沖で日豪合同軍事演習が行われたり、日本自衛隊の潜水艦が戦後初めてシドニーに寄港したりして、日豪の軍事協調が喧伝され、日本が豪州の潜水艦を受注する下地が整えられていたかに見えた。それだけに、フランスへの発注は驚きをもって報じられた。豪ターンブル政権は、豪国内での建造に消極的だった日本勢を外し、豪国内で建造する度合いの高い仏勢に発注することで、豪州南部のアデレードの国営造船所の雇用を増やしてやり、7月の選挙に勝つための策としたのだとか、フランスのDCNSの豪州法人の代表が豪防衛省の元高官で政治力が強く、海外での受注経験がない日本勢を出しぬいたのだとか言われている。 (Japanese unlikely to supply our submarines) (How France Sank Japan to Win Australia's $40 Billion Submarine Deal) (Thousands of jobs promised in a $50b billion dollar contract to build submarines in Adelaide) (Japan Falls Behind in Race for Australian Submarine Contract)

 私は、豪州が日本に発注したくなかった、もっと大きな地政学的な理由があると考えている。それは、潜水艦を日本に発注すると、今後20年以上にわたって日本との同盟関係を強めざるを得ないが、米国の覇権が衰退していきそうな今後の10-20年間に日本が国際的にどんな姿勢をとっていくか見極められない流動的な現状の中で、豪州が、日本との同盟強化に踏み切れなかったことだ。 (D-day approaches for vital submarine choice)

 豪政府が潜水艦の発注先を検討していたこの半年ほどの期間は、米国の覇権のゆらぎが大きくなった時期でもあった。米国はこの半年に、シリアやイランといった中東の覇権をロシアに譲渡したし、米連銀が日銀や欧州中銀を巻き込んで続けてきたドル延命策(QEやマイナス金利)の失敗感が強まったのもこの半年だ。次期米大統領の可能性が高まる共和党のトランプ候補が、財政負担が大きすぎるとして日本や韓国に駐留している米軍の撤退を選択肢として表明したのも今年だ。それまで、米国の覇権がずっと続くことだけを前提に国際戦略を立てられたのが、この半年で、米国が(意図的に)覇権を減退するかもしれないことを前提の中に加味せねばならなくなった。 (Abysmal submarine process a slap in the face to Japan)

 潜水艦は、兵器の中でも機密が多い分野だ。今回の建造は、豪海軍の潜水艦のすべてを新型と入れ替え、現行のコリンズ級の潜水艦(6隻)をすべて退役させる大規模な計画だ。新型潜水艦は30年使う予定で、その間に、豪州と発注先の国の関係が大きく変化するとまずい。日本と豪州は従来、両国とも米国の同盟国として親密な関係にあった。だが今後、米国の覇権が低下し、それと反比例して中国の台頭が顕著になった場合、日本と豪州の国際戦略が相互に協調できるものであり続けるとは限らない。 (日豪は太平洋の第3極になるか)

 豪州は、数年前から、衰退する米国と台頭する中国という2大国の両方との距離感のバランスをうまく取ることを国家戦略としている。豪州の政府内や政界には、対米同盟重視派(対米従属派)とバランス重視派がおり、アボット前首相は対米重視派で、ターンブル現首相はバランス重視派のようだ。ターンブルがアボットを自由党の党首選挙で破って首相の座を奪った昨秋が、バランス派が強くなる転換点だった。米中間のバランス重視に傾く豪州と対照的に、日本は、米国の衰退傾向を全く無視して米国との同盟関係のみを重視し、対米従属を続けるため米国の中国包囲網策に乗って中国敵視を続けている。米国の衰退を全く無視する日本に対し、豪州が懸念を抱くのは当然だ。 (Why Japan Lost the Bid to Build Australia's New Subs)

 豪州の権威ある外交問題のシンクタンクであるローウィ国際問題研究所では、この件についてウェブ上で議論が交わされてきた。論点の一つは、米国が中国敵視を今より強め、日本が追随して中国敵視を強めた場合、豪州も日米に追随して中国敵視を強めるということでいいのかどうか、という点だった。このシナリオが現実になった場合、豪州が米中バランス外交を続ける(中国と戦争したくない)なら、日米から距離を置く必要がある。潜水艦を日本に発注しない方がいいことになる。 (Japanese subs: A once-in-a-generation opportunity) (What the submarine contract means to Japan) (The case for Japanese subs is based on dangerous assumptions about Asia)

 もう一つの論点は、もし米国が軍事政治力の低下によって中国敵視をやめた場合、日本はどうするだろうかというものだ。日本は米国抜きで(核武装して)中国敵視を続けるか、もしくは中国との敵対を避けて対中従属に動くか(特に中国が日本のプライドを傷つけないように配慮した場合)という話になり、どちらの場合でも、敵対と従属という両極端のどちらかしかない日本の硬直した(もしくは浅薄な)姿勢は、中国との関係について慎重にバランスをとってきた豪州にとって受け入れられず、日本と同盟関係を強めることになる日本への潜水艦発注はやめた方がいいという意見が出ていた。 (With this ring...: Japan's sub bid is more than a first date) (Japan's submarine bid is a first date, not a marriage proposal) (Does Japan expect an alliance with Australia as part of a submarine deal?) (What sort of power does Japan want to be?)

 敵対関係の中で、形成が不利になっても早めに柔軟にうまく転換する道を模索せずに敵対一本槍をやめず、敗北が決定的になると一転して相手国に対する従属と追従の態度に一気に転換する。これは日本が第二次大戦で敵だった米英豪に対してとった態度だ。豪州は対日戦の当事者だったので、日本のそうした(間抜けな)特質をよく覚えているはずだ。その上で今の日本を豪州から見ると、中国に対し、かつて米英豪にやったように硬直した下手くそな一本槍の敵対策をやっている。日本の公的な言論の場では、米国が覇権を後退させる可能性について全く語られていないし、日本は中国に負けるかもしれないので敵対を緩和した方がいいと提案する者は「非国民」扱いされる。国民の多くは、この件について考えないようにしている。昭和19年と何も変わっていない。豪州が、日本と組むことを躊躇するのは当然だ。 (Mugabe in Tokyo: The warping of Japanese foreign policy)

 もととも豪州に対し、潜水艦を日本に発注するのが良いと勧めてきたのは米国だ。米政府は、独仏に対する不信感を表向きの理由に、独仏が作った潜水艦に米国製の新型兵器を搭載したくないので日本に発注するのが良いと豪州に圧力をかけた。豪州のアボット前首相は、この米国の勧めにしたがい2014年、安倍首相に対し日本への発注を約束した。日本としては、米国の後押し(七光り)を受けて豪州から潜水艦を受注することで、対米従属の強化と、自国の軍事産業の育成の両方がかなえられる。安倍政権は、製造機密の海外移転をいやがる三菱など業界側を説得し(叱りつけ)、豪州からの潜水艦受注に乗り出した。 (CSIS report argues for strong US-Japan-Australia alliance against China)

 米国は同時期に、日豪に対し、中国が軍事行動を拡大する南シナ海の警備や対中威嚇を、米国から肩代わりする形で日豪がやってくれと求めた。豪州に対し、潜水艦を日本に発注しろと米国が勧めた真の理由は、軍事機密のかたまりである潜水艦の受発注を通じて日豪に軍事同盟をさせつつ、日豪が米国に代わって中国包囲網の維持強化をやる態勢を作ることだったと考えられる。日本政府は、豪州と組んで中国を敵視するという、米国から与えられた新たな任務をこなすことで、日本の対米従属を何十年か延長できると考え、豪州に対し、米国との同盟強化のために潜水艦を日本に発注し、対中包囲網としての日豪米軍事協調を強めようと売り込んだ。 (Japan sees Chinese hand in decision to overlook Soryu)

 豪州に対する日本の売り込み方は、潜水艦を機に日米豪の同盟を強化し、中国への敵視を強めようという一本調子だった。日本外務省は近年、省をあげて「ネトウヨ」化しており、対中敵視と対米従属のみに固執している。外務省で米中バランス策を語る者は出世できない状態だろうから、省内でこっそり米中バランス策が検討されているとは考えにくい。日本政府が、国内で全く検討されていない米中バランス策に立った日豪同盟を豪州に提案していたはずがない。ローウィ研究所での議論から考えて、潜水艦の発注先を決めるに際し、豪政府側は日本に対し、対米従属以外の国策があるのかどうか、対米従属できなくなったらどうするつもりか、といった日本の基本戦略について尋ねたはずだ。これらの基本戦略について、日本では公式にも非公式にもまったく議論がない。だから日本は、豪州に対しても十分な答えができなかったと考えられる。豪州は日本に見切りをつけ、フランスに潜水艦を発注した。 (Japan's submarine bid looks sunk)

 豪国防省の戦略立案担当の元高官で今は大学教授のヒュー・ホワイト(Hugh White)は、以前から「豪州が潜水艦を日本に発注することは、日豪が軍事同盟を強めることを意味する」と言い続けてきた。同時に「日本は、同盟強化と潜水艦を絡めて売り込んでいるが、フランスやドイツはそれがないので独仏にすべきだ」とも主張していた。彼は、豪州内の対米従属派(対日発注派)から批判されていたが、ターンブル政権はホワイトの主張を採用し、フランスに発注した。 (If we strike a deal with Japan, we're buying more than submarines) (Hugh White on `The China Choice')

 今回の日本の不成功は、日本側が引き起こした面もある。日本では、安倍首相の周辺が、潜水艦を受注して豪州と同盟を強化することを強く望んでいたが、外務省や防衛省、防衛産業界には、潜水艦の受注に消極的な勢力がかなりいた。日本の高度な軍事技術を、まだ同盟国でない豪州に教えたくないというのが理由と報じられてきたが、国際政治的に見ると、要点はそこでない。潜水艦を機に豪州と同盟を組んでしまうと、米国が「日本は豪州と組んだので米軍がいなくても大丈夫だ」と言い出し、日本の対米従属を難しくしてしまうという懸念が、外務省など官僚側にある。米政府から直接に勧められて潜水艦の売り込みを続けた安倍首相に、官僚が正面から反対することはできなかったが、戦略をめぐる日豪の問答で、豪州が満足しない答えしか出さないことで、外務省は潜水艦受注をつぶすことができた。 (Goodbye Option J: The view in Japan) (Japan considers direct call with Malcolm Turnbull in last-ditch option for $50 billion submarine project)

 昨秋、豪潜水艦を日本が受注する可能性が高まった時、私は、日豪が同盟しない限り潜水艦技術を共有できないと豪州側で指摘されていたことをもとに、潜水艦を皮切りに日豪が同盟を強化し、日豪の間の海域にあるフィリピンやベトナム、インドネシアなども巻き込んで「日豪亜同盟」形成していく可能性について書いた。今回の豪州の決定の周辺にある、ロウィ研究所の議論などを見ていくと、日本との関係を同盟へと強化しない方がいいと考えて豪州が潜水艦発注をやめたことがうかがえるので、これは「日豪亜同盟」の創設を豪州が断ったことを意味すると考えられる。 (見えてきた日本の新たな姿)

 潜水艦の機密を共有したら始まっていたであろう「日豪亜同盟」について、日本は、中国敵視と対米従属の機構としてのみ考えていたのに対し、豪州は米中間のバランスをとった上での、対中協調・対米自立も含めた機構と考える傾向があり、この点の食い違いが埋まらなかった。日本ではこの間、豪州との戦略関係について、中国敵視・対米従属以外の方向の議論が全く出てこなかったし、近年の日本では、対中協調や対米自立の国家戦略が公的な場で語られることすら全くないので、今後も豪州を納得させられる同盟論が日本から出てくる可能性はほとんどない。「日豪亜同盟」のシナリオは、日本の豪潜水艦の受注失敗とともに消えたといえる。日豪同盟はまだこれからだという指摘も(軍産系から)出ているが、目くらまし的な楽観論に感じられる。 (Australia-Japan Defense Ties Are Deeper Than a Sunken Submarine Bid) (Respect must be shown to Japan)

 米政府は、最近まで豪州に対し、独仏でなく日本に潜水艦を発注しろと圧力をかけていたが、豪州が潜水艦の発注先を決めねばならない今春の期限ぎりぎりになって、発注先決定は豪州の内政問題なので米国は介入しないと通告し、豪州が自由に発注先を選べるようにしてやった。米オバマ政権は日本に対し、最後のところではしごを外したことになる。 (Canberra all but rules out Japan sub bid: report)

 米国は最近、ロシアや中国への敵対を強めている。欧州側の対露国境近くでは、連日のように米軍(NATO)の偵察機や戦闘機がロシアを威嚇するように国境すれすれに飛び回り、米露間の緊張関係を増大させている(米国が威嚇しているのに、米欧日のマスコミではロシアが悪いことになっている)。中露と組むBRICSのブラジルや南アフリカでは、米国の差し金で検察が大統領の汚職疑惑(ブラジルのは多分濡れ衣、南アのは昔の事件の蒸し返し)を執拗に捜査してスキャンダルが誘発され続け、米国による政権不安定化策が続けられている。また米国はインドに対し、軍事関係を強める動きを続け、インドを親中国から反中国に転換させようとしている。米国は今後、米国の覇権が崩壊するほど台頭するBRICSを解体させることで、自国の覇権を維持しようとする策を強めるだろう。 (Washington Launches Its Attack Against BRICS - Paul Craig Roberts) (Brazil, Europe, Iran, US, Saudi Arabia - The return of national sovereignty: heading toward one ultimate stand?) (Lula and the BRICS in a fight to the death - Pepe Escobar)

 米国に介入されるほどBRICSは結束を強め、米国の策は逆効果になっていずれ失敗する可能性が高い。だが今後しばらくは、米国が日本や豪州に対し、中国との敵対を強めるから一緒にやろうと圧力をかけ続けるだろう。米国のこの動きに対し、日本は喜んで乗り続ける。だが豪州は、しだいに米国についていかなくなる。今回、豪州が日本でなくフランスに潜水艦を発注したのは、その動きの一つだ。フランスなどEU諸国は、米国が中露敵視を強めるほど、米国についていきたくない姿勢をとっており、この点で豪州と気が合う。フランスは豪州から遠いように見えるが、実は違う。フランスは南太平洋にニューカレドニアなどの海外領土を持ち、豪軍と仏軍はこれまでも一緒に南太平洋に展開してきた。 (In French-Australian submarine deal, broader political and strategic context mattered)

 長期的に見ると、米国から距離を置く傾向を強め、同じく米国から距離を置く中国やフランスなどとの関係を強めようとしている豪州の方が戦略として正しく、最後まで米国との一心同体をやめたがらない日本は失敗していくだろう。金融面でも、ドルを防衛するためのQEやマイナス金利策が世界的に行き詰まり、米国覇権の喪失感が強まっている。米国の覇権が減衰したらどうするか、日本は、豪州に問われる前に考えねばならないはずなのだが、国内の議論はまったくない。馬鹿げた無条件降伏が、再び繰り返されようとしている。これは政府やマスコミだけの責任ではない。自分の頭で考えようとしない日本人全体に責任がある。
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