インテリジェンスから見る日中関係考察

知財問屋 片岡秀太郎商店 第93回 『 右脳インタビュー 』 (2013/8/1)より転載

福山 隆 さん 元陸将

hukuyama


1947年長崎県生れ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。外務省へ出向し、北米局安全保障課勤務、大韓民国駐在武官等を経て、1993年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦を指揮。陸上幕僚監部調査部調査第2課長、情報本部画像部長、西部方面総監部幕僚長、陸将を歴任後、2005年退官。ハーバード大学アジアセンター上級客員研究員を経て、現在はダイコー株式会社常務取締役。

主な著書
『[親米派・親中派]の嘘 ~日本の真の独立を阻むものの正体~』 ワニブックスPLUS新書 2013/7/27
『尖閣を奪え! 中国の海軍戦略をあばく 』 潮書房光人社  2013/7/23
『防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織』 幻冬舎新書 2013/5/30
『防衛駐在官という任務 ~38度線の軍事インテリジェンス~』 ワニブックスPLUS新書 2012/6/8
『「地下鉄サリン事件」戦記―出動自衛隊指揮官の戦闘記録 』 光人社 2009/4/20



 
片岡:
 今月の右脳インタビューは福山隆さん(元陸将)です。今、エドワード・スノーデンによる米国家安全保障局(NSA)のPRISM計画の告発(注1)の波紋が広がっておりますが、同じようなことはエシュロンや暗号問題等でも以前から指摘されてきました。まずはこの問題についてお伺いしていきたいと思います。


福山:
 こうしたことはヨーロッパではよくあることです。例えば各国の情報機関は直接、通信用海底ケーブルに海底で接続して聞く、或は電気通信会社に同意を求めて聞く…。ずいぶん昔からありました。パソコンも覗き見するでしょうし、紙の封筒も開けて見る…。国と国が力比べをしようという時には避けようのないことで、日本のメディアに見られるナーバスな議論では、にっちもさっちもいきません。現役の頃、アメリカ大使館には電話好きで有名だった小渕恵三首相の電話を直接聞く部屋があると噂されていました。自衛隊にも電波部門、所謂傍受部門があって、部長は警察からきていました。そこでは中国や北朝鮮のものを聞いていたと思います。さて、私は、今回の事件は中国が仕掛けたのではないかとみています。そこには二つの根があり、一つは「中国はサイバー攻撃を行っている」とアメリカは批判を強めていたので、その大義名分を失わせ、内外の信用も傷つけた。もう一つは温家宝に莫大な隠し資産があると海外のメディアが暴露しました。そこで、もし習近平のスキャンダルを出せば、このくらいの報復があることを見せつけるという面です。諜報機関が相手から情報を取るには、相手の諜報員を捕まえるのが常道です。二重スパイ、三重スパイ、各国は連綿と続けてきました。はぐれもの、女の失敗、借金、同性愛…、要するに弱点を持っているものをお互いに捕まえあっています。スノーデンもまんまと捕まった…。大多数の場合は捕まえても密かに利用しているけど、今回は舞台に登らせて告白させた…。それによって、首脳会談でバラク・オバマが習近平に「サイバー攻撃をするな」というのを封じた。オバマは初対面ながら良い対話ができたというけれど、腹の中では煮えくり返っていたでしょう。その上、中国はスノーデンを香港にかくまった。尚の事ではないでしょうか。そして香港からロシアに逃がす…、見事な連携です。
 また諜報員ではなくても、石原慎太郎や橋下徹のように目立つ人の周りにもエージェントがついていて、意図的にある方向に導こうとしています。石原慎太郎が「尖閣を買う」、そうぶち上げた瞬間から…。アメリカはオスプレイや普天間基地の問題もあるので、中国に日本を追い込ませる、まるでイルカを湾内に追い込むような仕掛けをした。中国も、ちゃんと周りで盗聴し、エージェントも置いておきながら、敢えてのって、ある意味でアメリカと合作をした。そして尖閣は棚上げ問題ではなく、領土問題だと、今では自分のもののような振る舞いをしている…。昔からこうした国盗り物語が続いています。要するに何でもありの世界で、日本の政治家は底が浅すぎます。結局、日本人のDNAには、インテリジェンスという感覚が極めて希薄だということでしょう。


片岡:
 インテリジェンスというと日本ではよく陸軍中野学校(注2)が取り上げられますが、どのように評価されていますか。


福山:
 中野学校は、歪で、武士道から発進した非常にピュアな世界を持っていて、また僅かな歴史しかありません。それまでは斥候要員、偵察要員に毛が生えたような活動で土着軍などから軍事情報をかき集めるなど、いわゆる近代的な情報組織とは程遠いもので、それを痛感して同校が立ち上げられました。同校出身の藤原岩市(注3)はインバール作戦、要するにタイ・インドで工作活動をするのですが、彼は「赤心を推して人の腹中に置く」というような演出、私は演出だと思っているのですが、そういう振る舞いが多い。一方、ヨーロッパはリヒャルト・ゾルゲ(注4)、レオポルド・トレッペル(赤いオーケストラと呼ばれたソ連のスパイ)(注5)…と抹消してきました。使い捨てです。そうした長い伝統で鍛え抜かれてきたマキャベリ的なヨーロッパのインテリジェンス、本格的なアメリカのCIAなどとは比べようもありません。また中野学校以来「中野は語らず」という悪しき伝統ができました。中野は士官学校出身ではありません。「お前たちは陸軍士官学校出から使われるだけの存在だ。絶対に口を覆って草の者たちのように死んで行け」と。同校を作った佐官(少佐、中佐、大佐)たちがそう方向づけましたが、これは士官学校出身者の思い上がりです。この影響もあって日本ではインテリジェンスについての回想録が少ないのですが、アメリカでは歴代のCIA長官等も書いていて、多くの血を流して築き上げた戦のエッセンスをそこに昇華させています。そういうものがなければ、机上の空論となってしまう、そうして強くしていかないと、日本のインテリジェンスは単なる少数派の思い上がりになってしまいます。


片岡:
 民間との公式・非公式の連携については如何でしょうか。


福山:
 端的な例が産軍複合体で、日本はこれを切ってしまったけれど…、アメリカでは産軍に加え、学、第三セクター等も巻き込んでいます。そういう大きなフレームワークを日本も作らないといけない。情報機能があり、参謀機能があり、尚且つコンセプトを打ち出せるようなシンクタンク機能を有する本部機能が必要です。また欧米では軍や情報機関の経験者等が民間軍事会社、危機管理会社を立ち上げて、そこに莫大なお金が流れて裾野の広いアウトソーシング体制が出来ています。日本は蚊帳の外、こうした会社のいいなりにお金を払っています。スノーデンの問題ではアウトソーシングの弱みも露呈しましたが、そこをどう担保するか検討の必要がありますが、日本もこうした仕組みを作っていくべきです。


片岡:
 そうした民間軍事会社、危機管理会社の中には情報機能を活かして、M&A支援業務等の一般の企業向けサービスを収益源とする会社も多いようですね。


福山:
 相手はやっているのに自分はやらず、国のお金、株主のお金が、技術が流出していく…。情報センスが欠落しています。ハーバード大学ではマーク・M. ローエンタールの『インテリジェンス―機密から政策へ』が一般の学生にも必須テキストとなっています。情報の世界はギブ・アンド・テイクです。民間との連携でも、我々が聞くだけでは済みません。NSAが得た情報もおそらく民間に渡され、企業を喜ばせているでしょう。一種の官民癒着です。つまり日本の企業はインテリジェンスを通じて透視を受けている…。富が奪われます。日本も本来はそういうソサエティを作らないといけないのですが、漏れたらメディアがあまりに感情的に騒ぐ、そういう構図の中では育ちません。アメリカやイスラエル等のように、しっかりした官民のあり方を国全体で考えていかないといけません。
 そのイスラエルはアメリカの情報員も尾行し、勿論、アメリカを直接スパイもする。それが表に出たのがジョナサン・ポラード(注6)のスパイ事件です。日本の警察はなぜアメリカのCIAや軍の情報員を捕まえないのか、捕まえないどころか、尾行も盗聴もしていない…。そうやってコントロールされています。そして例えば、今回TPPについてアメリカが深層では何を考えているか、或は尖閣について本当にコミットするのか…。日本は彼らが情報コントロールしながら与えてくれる情報しか入手しておらず、アメリカの奥の院のトップ・シークレットは分りません。イスラエルならばそれを掴んでいるでしょう。大きな違いです。
 しかし、日米安保に触れない、アメリカの逆鱗に触れない、中国の逆鱗にも触れないというスタンス、日本の今のレジームの中ではそうした組織、人間は育ちません。「へらへら笑って、急所を蹴る」それくらいの強かさがないと。テーゼは日本という国民国家の生き残りです。そうしなければ、いずれ日本はばらけて、この国を、この列島をよその民族に明け渡すしかなくなってしまいます。


片岡:
 日本の官僚のインテリジェンス感覚についてお話下さい。


福山:
 私がハーバード大学に留学した折、日本でも著名なある教授のお宅に下宿させて戴きました。彼のような知日派の中には日本にファンを作って影響力を強め、CIAとか、情報コントロール、ジャパン・ハンドリングを担当したりする人もいます。彼は実際に情報機関の高官も務めた方なのですが、彼のもとには日本のメディアが山ほど押しかけて「ご高説」を賜り、そのまま日本国民に知らしめていました。また彼は塾を開いて、日本から留学してきているキャリア官僚たちを指導していました。官僚たちは彼の前で自分の持っているものを全部さらけ出す。近い将来日本の中枢を担う彼らが自己の専門分野の10年後の政策について論議し、一年もかけて中長期の政策をレポートにして提出する。その研究レポートは日本の将来政策そのものに限りなく近く、アメリカの情報機関にしてみればトップ・シークレットの情報です。注意したのですが…。日本の官僚は「うぶ」と言われても仕方ないでしょう。


片岡:
 そしてアメリカは、良い人を見つけ引き上げていく…。見事な仕組みです。


福山:
 外務省の所謂アメリカン・スクールには結局、そういう面もあります。チャイナ・スクールも同じです。しかし、今こそ彼らにしっかりしたチャネルを持って、パイプを太くして、国のために役に立って欲しい。中国との問題でも、ありとあらゆる手があるはずです。手をこまねいて、ステレオタイプ的に中国は脅威だからアメリカと日米同盟を深化させる…、こういう言葉だけでは非常に危うい。多種多様な、どう転んでも生き残るような道を作っておかねば。日本はナイーブで、単純すぎます。戦後の政治、外交は、アメリカに追随するだけで、劣化しました。政治家と外交家には強かなマインドと手腕、愛国心が求められます。
 さて、領土問題は非常に厄介です。領土というと、合理的な判断ではなく、ワーとなってしまう。どんな問題でも妥協の道があるものです。そう言うとすぐ「中国が好きなのですか?」という人がいます。しかし、第二次大戦中、米国を激しく敵視・蔑視していた日本が、戦後、在日米軍を容認している。その中でどれ程の妥協がなされてきたのか。この現状は、180度転換したら、在日中国軍があってもいいという世界を容認しているのと同じです。嘗て日本は第二次世界大戦で民間人270万人、軍人40万人の国民を失いました。戦争が始まって終わるまでに、ミッドウェイやガダルカナル等、攻防の転換点があった。なのに、なぜ、いち早く、或は最初から米国に渡りをつけて、妥協する道を見つけなかったのか、国体の維持という名のもとにジリジリジリジリきたかからこうなった…。今の我々にとって至高のものは、国民の生命・財産であるべきです。そういうぎりぎりの議論をなおざりにしてきました。
 そもそも日本は九州防衛、離島防衛について、大きなことが言えません。二千数百ある島のうち有人の島は二百程しかなく、大部分は無人島です。尖閣どころではない。そういうものを取られる可能性もある。まず漁船などでやってきて住み着いても誰も分からない…。一つの島に自衛隊員を十人ずつ置くと、二万数千人、物理的に不可能です。日本には領土をコントロールする力がない。であれば、例えば、長崎・五島列島…、キリスト教巡礼の旅等も作って人の流れ、産業を興せばいい。サミュエル・ハンチントンが文明の衝突といったが(注7)、我々には脈々と続くキリスト教の歴史があることを西洋人に示すという思惑もあります。要するに自衛隊をおくかどうかという論議をするよりも、人を通わせて、住めるような構造をまず作るべきです。それもせずに離島防衛といってもしょうがない。そうした安全保障の概念、宗教や文化を巻き込んだ、総合振興策をやらなくては…。領有するのであれば、国としての覚悟が必要です。
 さて、今後も国民国家が存続するとすればナショナル・アイデンティティーが国民に方向性を持たせる大きな力となります。四分五裂どこを向いているかわからない国が弱くなるのは当然で、アメリカも何れそうなると思っています。人種的に、ヒスパニック、チャイニーズ、それがサラダボール状態だからです。嘗てセオドア・ルーズベルトは、WASP (White, Anglo-Saxon, Protestant)という世界に移民を入れるのであれば、言葉を通じさせ、文化を捨てさせてアメリカナイズしなければ、いずれやられると深刻に心配していました。それは黄禍論(Yellow peril)が流行った時期でもありました。入ってくる移民をアメリカナイズすることはアメリカの力の源泉でもありますが、今、それをもう消化できなくなってきている。事実上ヒスパニックはフロリダ半島を乗っ取るような勢力になっている。ヒスパニック以外でも、カリフォルニアのチャイナタウン、コリアンタウン、それからイスラムが…。アメリカは早晩、ボスニア・ヘルツェコビナのようになってしまいかねません。結局、アメリカは人種のオリンピック、しかもひも付きです。背後の国と色々な形で癒着をする…。
 つまり日本が寄り添おうとしているアメリカは、今のアメリカであり続けるとは限りません。アメリカは日本と違って多民族国家ですから、各民族のバックにいる、或は支配的な文化を構築する人間・国によっても指導者が変わってきます。


片岡:
 日本もそうした競争に参加する…。


福山:
 これからは日喬の時代です。我々は世界に打って出るという思想を取り戻さなければならない。マレーのハリマオ(谷豊)(注8)のような日系人も沢山いました。日本人はその力を持っているのだから、アメリカは勿論、アフリカにもどんどん出て行き、そこで骨を埋めよ…。今なぜ韓国のロビーに圧されているか。それからイスラエルのロビーも物凄い力です。諸外国はインテリジェンスと一緒になって大々的に展開しています。アメリカは世界のスーパーパワーで且つ多民族国家、ある種、草刈り場的、誰がやってもいいという世界です。日本は外交官が独善的に外交の一元化などというから非常に弱い。外務省の権限から外して、二枚外交、三枚外交…と。日本も世界に移民を出して拠点を作っていく、優秀な人材の海外流出を心配するのではなく、優秀な人材程、海外に出ていけ、そして甲斐性を持って拠点を作り、根を張れ。頭脳流出は大いに結構…。アメリカに人材を植え付ける。それこそが日本の大きな生き残りの道です。またエリック・シンセキがアメリカの陸軍参謀総長に、或はアルベルト・フジモリがペルーの大統領についたとき、こうした人をどんどん支援すべきでした。


片岡:
 次に日本の地政学的なポジションについてお聞かせ下さい。


福山:
 日本は地政学的に特殊で、今川と織田に挟まれた徳川(三河)のようなものです。家康は嘗て今川に人質に取られました。今川は徳川をたきつけて、俺の防波堤になれと。勿論、家康は中立になりたいと思った。地政学的要所ではなければそれもいい。だけど、三河は交通の要衝で肥沃なコメの産地、ここをどちらかがとることによって、天下取りの様相ががらりと変わる。だから中立は許されません。そんな状況の中で、徳川は積極的に織田を攻めて、今川には「よくやっている」、織田には「手強い相手」という印象を与えながら、尚且つ自身の兵も鍛え上げていった。今の日本もそういう志を持って米中と付き合っていかないといけない。一方、「八重の桜」で話題の会津藩は藩士・藩民よりも家訓にとらわれ、朝敵となって徹底的にやられてしまった。軍事バランスの中で、地政学的要衝に位置する弱小国はどう身を処すればいいのか。勢力を失いつつあるアメリカ、今の中国もいつひっくりかえるかわからない。日本国民の生命・財産を守るために、どうアメリカと付き合うか、どう中国と付き合うか。それを厳然と考えて、今はアメリカの意向に沿って日米同盟に尽くしながら、自主防衛の体制を整えていく、ただし、中国と事を構える必要はなく、小競り合いはあっても戦火を交えてはいけません。そうして趨勢を見極めながら、いつでも中国に乗り換えることもできるようにしておくことも必要です。それを深層の決意にしなければならない。アメリカが日米安保条約で実際にコミットするときには国民の総意である議会の議決に従わなければいけない。日米安保条約はある意味ではただの紙です。我々は日米安保条約に頼らなくてはいけないが、「それありきと当てにすべからず」です。
 日本は米中にとってある意味で美味しい地形です。嘗て朝鮮戦争では、米中は制限し合って、例えば中国がコミットするときも中国人民志願軍等という形を取り、米中直接の衝突を避けました(注9)。同じように今、米中の戦いもあり得るとした場合、中国からアメリカを攻めるには物理的に核ミサイルしか届かない。しかし核の応酬だと両方とも絶滅する…。アメリカが考えても、中国が考えても、戦場を日本だけに限定するでしょう。


片岡:
 仮に戦端が開かれるとすると、軍事、非軍事…、どのような展開がありうるのでしょうか。


福山:
 例えば、以下の十戦が想定されます。

1. 軍事作戦

a. 軍事力による威嚇・挑発行為:
 中国はアメリカとの戦争にエスカレートしないように軍事力の直接行使を回避するが、日本には、政府と国民に与える影響・圧力が効果的な、艦船・戦闘機を使った軍事力そのものによる威嚇・挑発行為を実施する。


b. 中国の短・中距離弾道ミサイル戦力はアメリカの『核の傘』に対する信頼性を低下させる:
 中国が1990年代から短・中距離の弾道ミサイル戦力の著しい増強を続けてきたのに対し、アメリカはINF条約(中距離弾道ミサイルの全廃条約)に基づき、短・中距離弾道ミサイルは保有していない。このため中国が「核弾頭付の短・中距離の弾道ミサイルや巡航ミサイルで東京や大阪を核攻撃するぞ」と脅迫した場合、日本は「アメリカの『核の傘』は大丈夫なのか」と不安と疑心を抱く。それはやがて「アメリカは本国を中国の核攻撃の危険に晒してまで日本を守るはずがない…。アメリカには頼れない、アメリカはあてにならない」といった意見の台頭を招く。


c. 核ドミノ戦略:
 日本に「核兵器開発・保有」を迫る状況・環境を作為し、日本の世論を分裂させ、日米同盟の分断を目指す政治・軍事・心理戦略。中国は表面上、北朝鮮の核開発阻止に積極的に取り組んでいるように振る舞いながら水面下で北朝鮮の核ミサイル開発に協力する。この結果「ドミノ倒し」のように韓国、日本を核武装に誘導する。アメリカは韓国の核開発が日本の核開発、台湾の核開発に繋がることを懸念し、必死の説得・工作で阻止しようとする。しかし、北朝鮮が韓国を核ミサイルで脅せば、韓国は核武装に進まざるを得ない。米韓関係は破綻に追い込まれ、韓国は中国の影響下に入る。この結果、日本も核ミサイル開発論議が高まる。しかし核アレルギーが強い日本では中国の工作の後押しも受けて強い反核兵器運動が展開される。「反核感情」は自動的に「反米感情」を高め、日本が核武装をしなくても日米の離間は決定的となる。日本から米軍が撤退すれば直接の軍事介入がなくても台湾は中国のものとなる。仮に日本が核武装しても、日本、韓国、台湾の核武装は中国の脅威とはならない。そもそも核保有国同士が核兵器で交戦する可能性は極めて低いうえに核兵器が使われる場合でも広大な国土を有する中国と、国土狭溢で人口密度の高い3か国とではインパクトが大きく異なる。



2. 外交戦
 目的は「日米同盟の分断」と「(中国主導下の)中日友好」である。日米分断のためには、日本の政治・世論を反米に、アメリカの政治・世論を反日に傾けていくことで、そのためのツールは歴史問題と北朝鮮問題などがある。


3. 経済戦
 2010年9月7日の尖閣諸島中国漁船衝突事件の際に中国が実施した日本の弱点を突くような報復的措置が例となる「日本の閣僚級の往来を停止」「航空路線増便の交渉中止」「石炭関係会議の延期」「日本への中国人観光団の規模縮小」「在中国トヨタの販売促進費用を贈賄と断定し罰金を科すと決定」「日本人大学生の上海万博招待の中止」「中国本土にいたフジタの社員4人の身柄を拘束(許可なく軍事管理区域を撮影したとの理由)」及び「レアアースの日本への輸出の事実上の停止」などである。その一方、これらの措置は中国経済にも一定のダメージを齎した。この点は研究してくるでしょう。


4. 諜報・工作戦
 重点対象は、第一は中国への好感、親近感を抱かせ、中国共産党、中国への警戒心を無意識のうちに捨てさせるための大衆掌握の心理戦であり、第二は政党工作。第三はメディア工作。日本はメディア工作の天国で、そのポイントは「十人の記者より、一人の編集責任者の獲得」である。


5. 中米合作戦
 中国の対日支配が確立するまでは、中米の利害が共通する部分において、合作を実施する。例えば、日本の憲法改正、敵基地攻撃能力の開発・保有などの阻止だ。中米の兵力格差から判断して直接の軍事対決は避けなければならない。中米合作戦は短期的にアメリカを懐柔する意味においても有益。


6. 人民示威(デモ)戦
 メディアが発達した今日、中国人民によるデモは、日本政府・世論に大きな圧力をかける手段となる。また必要に迫られれば中国に進出した日本企業の社員・家族を、デモの「人質」として活用することも出来る。タダ、矛先を変えて反政府デモに変質しないような注意も必要。


7. 世論戦
 世論に対する宣伝工作で、極端に言えば「黒」を「白」と100回宣伝すれば、やがて事態をその方向に動かせるという考え方で、日米の国内世論、国際世論に影響を及ぼし、また日米同盟の分断、本土と沖縄の分断を煽る。


8. 心理戦
 自衛官・米軍人及びそれを支援する国民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、日米の戦闘作戦遂行能力を低下させ中国の望む方向に事態を誘導することを目指すもので、脅迫的手段の行使や軍事力行使を匂わせることも含む。世論戦と心理戦は密接に連携する。


9. 法律戦
 中国における「法律戦」は法律の規定内で戦うということではなく、法律そのものによって相手を弱体化させ、政治的指導権を握るうえで如何に利用できるかということに重点がある。日米などの「法治」国家の弱点を追求し自らの法により「自縄自縛」状態にして、闘争を有利にすることを目指す。


10. 超限戦(注10)
 前項とも重なるものも多い。「超限戦」は中国の現役大佐の喬良と王湘穂による戦略・戦術研究の成果で総参謀部承認の下、1999年に発表(発刊)された。9.11米同時多発テロ以降その発生を予言していたとして更に注目を浴びた。喬良らは「グローバル化と技術の総合を特徴とする21世紀の戦争は、すべての境界と限界を超えた戦争」だと位置付け、「あらゆるものが戦争の手段となり、あらゆる領域が戦場となりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる」と述べている。また超限戦に含まれる戦い方として通常戦、外交戦、国家テロ戦、諜報戦、金融戦、ネットワーク戦、法律戦、心理戦、メディア戦など25種類を挙げている。更に「『超限戦』においては、目的達成のためには手段を選ばず、徹底的にマキャベリになりきること」を勧め、そのためには「倫理基準を超え、タブーを脱し、手段選択の自由を得なければならない」と説いている。実際、尖閣諸島中国漁船衝突事件での中国の対応は超限戦を念頭に展開されたものとみられる(注11)。


 他の国は、これくらいワイドな戦いを仕掛けてくるでしょうし、一部は既に実行されています。だから決して直接的な刃は交えるべきではありません。
 よくシビリアン・コントロールといいますが、「文」と「武」は歴史的に常に葛藤してきました。今は、「武」は抑え込まれ、自衛隊という弱小な状態になっています。財務相、外務省、防衛省の内局(文官)も…、そしてメディアも皆、「武」は隔離し封じ込めて…と思っています。だけど自衛隊の制服組(武官)は誰もモノを言わなくなり、これでは本物が出てきません。「文」と「武」がどんどん意見を出しあい、シャッフルすることによってはじめて健全な議論ができます。軍事というものも念頭に入れた、安全保障のディスカッションが出てこないと、ナイーブで浅薄な議論になってしまいます。ここを抜本的に変えないと、日本の中に強かな理念や思いが出てきません。土壌の問題です。


片岡:
 貴重なお話を有難うございました。




~完~ (敬称略) 







インタビュー後記

 福山さんは1990年在大韓民国日本大使館の防衛駐在官(駐在武官)に着任、北朝鮮関連、在韓米軍関係、韓国軍関係の軍事戦略、作戦、戦闘に関する情報収集活動等の任にあたりました。3年間の任を終え成田空港に飛行機が着陸した時は、「ホッ」として全身から汗が噴き出したそうです。その後すぐ、フジテレビのソウル支局長と韓国国防部の日本担当の情報将校がスパイ容疑で逮捕され、福山さんが首謀者と韓国メディアが報じました。実際は、福山さんはこの事件に関与していなかったそうですが、陸幕は福山さんを切り捨てようとし、対照的に外務省の北東アジア課長が「福山さんを守る」と明言、また警察庁から防衛庁に出向していた内局・調査1課長も励ましてくれ、辞職や免職を免れたそうです。
 最後に福山さんが在外公館に出る国土交通省の官僚に贈った言葉を紹介します。「貴方たちは在外公館に出ると、プッツリと糸が切れたように孤立感に苛まれる。そこでは本省の事も一切忘れて、自分がスパイになったつもりで人間を磨く、言葉を学び、現地の人と付き合い、そして自ら目標、任務を設定して自らを鍛える。またゾルゲやトレッペルが国外でどう活動したか足跡を辿る。物凄く大きな見識や度胸ができます。外務省や国土交通省という軒先を越えて色々なことができます。…人間は限りなく弱い。貴方の地位を保全してくれる国土交通省という価値観もありますが、本当は実に小さなものです。それを超える、貴方が一生寄るべき価値観を見つけて下さい」


聞き手

片岡 秀太郎

 1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。クライシス・マネジメントとメディアに特化したアドバイザリー事業を展開



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