シェールガスの国際詐欺

シェールガスの国際詐欺
2014年5月7日   田中 宇


 伝統的に民主党が強く、州知事も民主党がとっている米国のカリフォルニア州では、民主党の党大会が毎年予定どおり順調に終わるのが常だった。しかし今年3月の民主党の加州党大会では、意外な波乱が起きた。シェールガスやシェール石油(タイトオイル)の採掘による環境破壊に反対して規制強化を求める市民の党員たちが、シェール採掘(フラッキング)に対する規制を渋るブラウン知事や議員ら党上層部に反対し、知事の演説に罵声を飛ばしたりした。 (Politicians Who Support Fracking Are Starting to Pay a Political Price)

 加州は、全米の既知のシェール石油の半分以上を埋蔵している大産出州だが、シェール採掘に対する規制が全くない。州内の採掘地では水質悪化や異臭、地盤沈下などの環境破壊が起きており、反対運動や訴訟が始まっている。だが、石油産業からの政治圧力や献金を受ける州知事や議員は、反対運動を無視している。この事態を見て、議員ら党内の有力者の中からも、シェール採掘を規制すべきだとの声が出始め、反対運動が広がって党大会にも持ち込まれた。シェールの石油ガス採掘に対する反対運動は、全米各地でしだいに強まっている。ペンシルバニアでは、シェールガス採掘に反対する住民が裁判を起こし、1500のガス井の採掘を止めさせた。 (Chevron Among Drillers Facing Gas Wells Nuisance Lawsuit)

 シェールの採掘は、掘った井戸から化学物質を注入し、その圧力で石油やガスを採掘するが、石油会社はどんな化学物質を注入しているか、企業秘密を盾にほとんど公表していない。地中に注入された化学物質は地下水に混じり、飲料水や農業用水を汚染する。多くのシェールガス田は数年で枯渇し、セメントでふたをされるが、その後もガスが漏れ出ることがあり、異臭や健康被害を引き起こす。米国ではこの3年間で4万本のシェール石油ガス井が新たに掘られたが、その4分の3は乾燥地帯で、地下水が貴重な水資源なので、その水質悪化は深刻な問題だ。 (Fracking is depleting water supplies in America's driest areas, report shows)

 シェール石油とガスの多くは、貧困層の住民が多い地域で採掘されている。先住民の居住区も多い。採掘会社は、被害や懸念を訴える地元住民に、被害について口外しないことを条件に、お金を配ったり便宜供与したりして黙らせる。そのため、シェール採掘ブームが始まってしばらくは、採掘による環境破壊が問題にならなかった。だが、時間が経つにつれて被害の実態がわかり、全米各地の市町村の中には、採掘を規制する動きが出始めている。 (Fracking Boom Slouching Toward Bust) (Fracking Indigenous Country)

 シェールの石油とガスは、地中の水平方向に化学物質と水を混ぜた液体を大量に注入する「フラッキング」の手法で採掘するため、地中の状況が変化し、その反動で地震が起きやすくなる。米政府の地質調査所(USGS)によると、全米で年間に起きるマグニチュード3以上の地震が、1970-2000年には平均で年20回だったが、2010-13年には年100回以上に増えており、その何割かはシェール井が集中する地域での増加だ。1万本以上のシェール井があるオクラホマ州では、シェールの採掘がなかった08年まで、M3以上の地震が毎年の平均で2回しか起きなかったが、昨年は109回起こり、今年は4月の段階ですでに145回起きている。 (Oklahoma Earthquake Rate Breaking Records, and Fracking Could Be to Blame)

 以前の記事に書いたように、シェールの採掘は、企業の採算の面でも引き合わなくなっている。シェール井は、従来型の石油ガス田に比べ、枯渇がはるかに早い。多くの場合、採掘開始から3-5年で産出量が減り始める。一つの鉱区(プレイ)の産出量を維持するため、採掘企業は、鉱区内に次々と新たな石油ガス井を掘り続けねばならず、掘るために毎年膨大な投資金が必要になる。ブームになって全米でシェールの開発が急増したため天然ガスが供給過剰になり、米国でのガス価格が3分の1に下がり、採算性の悪化に拍車をかけた。シェール石油ガス業界は、全体としてすでに赤字だ。 (シェールガスのバブル崩壊) (US shale is a surprisingly unprofitable miracle)

 石油ガス業界は政治力を駆使し、マスコミも動員して、シェールの採算性が悪いことを隠している。石油業界出身のブッシュ大統領の時代に喧伝され始めたシェールガスのブームは、金融界と石油ガス業界が組んで画策したものだ(チェイニー副大統領が、フラッキング技術を持つ企業「ハリバートン」の出身だった)。採算性が悪く、すぐ枯渇するシェール採掘を、あたかも高収益でずっと枯渇しないかのように喧伝して採掘に必要な投資金を集め、その後も採算性の悪さを隠して金を集め、自転車操業している。これは、鉱業で昔からある「山師」の詐欺手法だ。いずれ採算性の悪さが露呈し、投資のバブルが崩壊する。 (Get Ready for the North American Gas Shock) (Fracking and the Shale Gas "Revolution")

 いまだにマスコミは、シェールのガスと石油が世界のエネルギー市場を大転換させつつあるかのように報じている。だが投資の分野では、すでにシェールのブームが終わりつつある。S&Pの米国の石油ガス採掘業界の株価は、シェールブームの影響で02年から07年までの5年間に4倍になった(同期間にS&P全体は27%増のみ)が、08年以降になると、全体の株価が28%増になったのに、採掘株は16%しか上がっていない。 (Shale boom leaves investors underwhelmed) (US shale gas, tight-oil plays face financial woes)

 シェールは、利益が出にくいうえに、従来型の採掘に比べて詐欺的な色彩が濃く、環境破壊を隠したまま行われ、地元民の反対運動も強いため、大手企業にとってやりにくい。社会的責任が低い中小は大胆な詐欺商法や反対運動無視をやって儲けを出せるが、それができない大手は赤字だ。ロイヤルダッチシェルは、米国でのシェール石油ガスの開発事業を2割縮小すると決め、全米4州でシェール採掘から撤退し、合計70万エーカーの鉱区を売却することにした。英BPは、米国のシェール開発部門を専業の別会社として独立させ、本体から切り離して大胆な事業展開ができるようにした。 (Shell cuts spending in U.S. to lower Shale exposure) (Big Oil comes up short in Shale)

 シェールの石油ガス開発は、詐欺の構図を持っているだけでなく、国際政治と絡んだ詐欺になっている。シェールの詐欺の構図に最初に乗ったブッシュ政権が、石油ガス産業と軍事産業という、外交を道具として世界中で儲けようとする2つの利権が合体したものだったことが、シェールの詐欺が国際化した背景にありそうだ。 (The Fracked-up USA Shale Gas Bubble)

 米国のエネルギー業界や政界の人々が、欧州や中国、アフリカ、中南米などの政府や同業者に売り込み、世界中でシェール石油ガス開発を進めようとしてきた。米国の業界は、シェール開発の技術が売れるし、地元の投資家からシェール開発の投資金を集めて手数料を稼いだりできる。石油やガスがうまく出れば、精製所などの投資でも儲けられる。 (Europe told it risks missing shale boom) (Global Gas Push Stalls)

 しかし、シェールの開発はしょせん詐欺の構図だ。米国以外でシェールガスの開発に最も早く着手したのはポーランドなど東欧諸国で、エクソンやシェブロン、エニなどの米欧の石油ガス開発の大手企業が参入した。しかし開発を始めて間もなく、持続的にガスが出そうもないことがわかり、昨年後半、大手企業が相次いで抜けていった。 (Exxon sells shale gas licences to Polish refiner PKN) (Eni joins shale gas exodus from Poland)

 ポーランドの近くのウクライナやリトアニアでも、いったん米欧の大手がシェール石油ガス開発を受注したが、調査したら有望でないとわかり、いずれも撤退している。しかしその後、2月末からのウクライナの政治危機で、状況が再び変わった。東欧諸国は、ガスの供給をロシアの国営企業ガスプロムに頼っているが、ウクライナ危機で東欧にNATO軍が駐留したりして米欧の対立が激しくなると、ロシアは東欧にガスを売らなくなる。米国勢は欧州に対し「ロシアからガスを買わなくてすむよう、早くシェールガスの開発を再開しろ」と言い出した。 (Hot air about American gas will not scare Putin)

 危機勃発後、4月にウクライナを訪問した米国のバイデン副大統領は、ウクライナ新政権に対し、ロシアへのエネルギー依存から脱却するため、シェールガスの開発を早く進めるよう、さかんに圧力をかけた。 (Vice President Joe Biden Promotes U.S. as Fracking Missionary Force On Ukraine Trip)

 ロシア依存を低下させたい東欧に対し、米国勢がシェールガスの開発をさかんに勧める構図は、ウクライナ危機以前からのものだ。昨年、米国の勧めでリトアニア政府がシェールガス開発計画を打ち出したとたん、ロシアのガスプロムが天然ガスの販売価格を2割引にすると持ちかけてきた。値引き提案を引き出したリトアニア政府は満足し、シェールガス開発の計画を中止した。 (Shale Projects and Gas Fracking in Eastern Europe)

 EU内でも、米国に頼ってロシアの脅威から逃れたいウクライナやポーランドなど東欧勢は、米国の売り込みを受け、短期間ながらシェールガス開発を進めようとしたが、ロシアと協調関係を築きたい傾向が強いドイツやフランスなどは、シェールガスの開発に消極的だ。ドイツでは環境大臣が、シェール採掘時のフラッキングが環境破壊につながるとして禁止すべきだと表明している。ワインやエビアンなどおいしい水が売り物のフランスも、フラッキングによる水質汚染をきらい、シェール開発を全く行っていない。英国は、米国との同盟関係を重視してシェール開発を認めたが、採算が合わず反対運動も起きたので早々に中止する話が出ている。 (Environment minister: Make fracking illegal) (Shale boom unlikely in Europe, says Eon)

 欧州諸国はウクライナ危機後、自国内で高リスクなシェールガスを開発するのでなく、米国のシェールガス田で採れたガスを買うことの方を希望している。米政府は、すぐにでもシェールガスを欧州に輸出してロシアを困らせてやると言っているが、これもインチキ話だ。米国は昔から安全保障策として自国の石油ガスを輸出しない方針をとり、天然ガスを液化して海外に積み出す設備がほとんどない。 (US gas boom could be geopolitical weapon)

 米国では近年、シェールガスブームを受けてガス輸出が例外的に認められ、精製・積み出し設備の工事が行われているが、完成は来年で、しかもそこから輸出するガスはすでに売り先が韓国やインドに決まっており、欧州に売れる分がほとんどない。オバマ政権は、そうした状況を隠し「EUが米欧自由貿易圏(TTIP)に署名するなら、すぐにガスを売ってやる」と、貿易交渉の道具に使っている。EUは、この話のインチキを見抜いている。 (White House Lies to EU about US Gas Supply - William Engdahl)

 米国のとなりのカナダでは、シェールの石油ガス開発が手がけられている。しかし同時にカナダは、従来型の採掘で石油やガスを産出し、特殊な採掘方法のタールサンドの石油も産出する国だ。シェールブームによって、米国のガス相場が下がったり、自国の石油ガスが米国に売りにくくなることを、カナダは恐れている。カナダの財界人は「シェールの石油ガスは採掘費がかかりすぎる。米国は、カナダのタールサンドの輸入した方が良い」と言っている。 (U.S. Needs Oil Sands as Surge From Shale Bonanza Seen Overdone)

 そんな政治状況を背景に、権威あるカナダの科学者たちで構成する評議会(Council of Canadian Academies)は最近、フラッキングによる環境汚染などの悪影響がどの程度なのか確認できるまで、シェールの開発をゆっくりやるべきだとする報告書を発表した。フラッキングが地下水に悪影響を与えるのは確かで、悪影響の程度がわかるまで数年かかるのに、データ集めもせずに北米に15万本ものシェールの石油ガス井が掘られ、フラッキングがどんどん行われていると警告している。 (Fracking Growth Outpacing Scientific Knowledge in Canada: Report)

 国際詐欺を警戒する西欧などと対照的に、儲かるなら詐欺に乗ってもかまわないと思っているようなのが中国だ。米国のシェール業界は、中国が、米国とカナダを合わせたより多くの、世界一のシェールガスを埋蔵していると(たぶん誇張して)喧伝している。 (Shale gas key to US Asia pivot) (Beijing's Problem With Shale)

 中国では、四川省の西南部などでシェールガスの採掘が始まっている。中国政府は11年からシェールガスの開発を始め、開発を手がける企業を入札で決めている。毎回100社前後が応札するが、そのほとんどは不動産業者などで、エネルギー開発の経験が全くない。落札企業の多くは未経験で、しかも現地の状況を事前に詳しく調べていない。対照的に、大手の国営企業は慎重で、調査に時間をかけている。 (China's ragtag shale army a long way from revolution)

 この騒乱から見え隠れするのは、実際に採掘してガスを売って儲けるのでなく、鉱業権を転売して儲けようとする姿勢だ。中国人は米欧のブランドが大好きで、米政府が「シェールガスに未来がある」と喧伝する限り、シェールガスの鉱業権は、実際にガスがあまり出なくても非常に価値がある。だから、当局は入札で儲けたがり、投資家(投機家)は転売目当てで応札に殺到する。 (Shell Sees Major Advance in China Shale Output Within Two Years)

 中国では以前にも、米欧が扇動した地球温暖化対策の騒ぎに乗って、中国国内でソーラーパネルや風力タービンなど代替エネルギー関連の製造業への投資が急増した。結局のところ、これらの製造業者がいくつも倒産し、バブル崩壊して終わっているが、巧妙な投資家は、バブル崩壊前にうまく売り抜けて儲けたはずだ。 (Suntech Is Pushed Into Chinese Bankruptcy Court)

 中国人は、まだアングロサクソンやユダヤ人のように国際詐欺の大きな構図自体を作る技能がないものの、西洋人が作った国際詐欺の構図に、詐欺と知りつつ乗って儲ける技能は、すでに十分に持っている。中国の企業や当局は、タックスヘイブンや債券、金融当局の市場操作など、アングロ・ユダヤ人が作った国際金融システム(という名の壮大な詐欺構造)の技能も、ここ数年で急速に身につけている。中国は、国際詐欺の構図自体を作れるようになると「覇権国」になるのかもしれない。
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